2004/03/13

去年を待ちながら / フィリップ・K・ディック

去年を待ちながら / フィリップ・K・ディック 東京創元社
Now Wait for Last Year

時は2055年。他星と同盟を結んだばかりに、望んでもいない星間戦争に巻き込まれてしまった地球。老いさらばえて病に倒れ続け、死に瀕し続けながらも不動の地位を保つ国連事務総長モリナーリは、敵戦星よりもむしろ同盟星側からの圧力に頭を悩ませていた。軍需産業の要となる大資本のTF&D社は、人工臓器移植医エリックをモリナーリの専属担当として派遣する。エリックの妻キャサリンは人間的存在の全てにおいて夫を凌駕し抑圧していたが、彼との深い確執から非合法のドラッグに走り、溺れてゆく。それは時間と空間の認知能力に脅威的な影響を与えるものだった…。

 星間戦争の動向は二の次で、主題はエリックと妻キャサリンの間に横たわる深淵のほうである。ドラッグによる時間と多元宇宙間の移行、道教の権威、アンティーク品を集めて火星上に再現された過去の地球の街、路地裏を走り回る小さな自律式機械群など、ディック作品に頻出する要素がぎっしりと詰め込まれた作品だが、それらのほとんどは二人の人生に色彩と影を落とすためだけの存在に過ぎず、ストーリー経過の中に次々と浮かんでは消えていく。決して完全には打開できない壁、永遠につきまとう閉塞状況にどう対峙するべきか? やっぱり禅問答みたいな話だと思う。鼻先にぶらさがっていて目には見えないものに手を触れるまでの話。

 今気づいたがこの本、アマゾンのデータベースでは翻訳者名の記載だけで、なんと原著者名が書いてない…。そのためディックの名前で検索してもヒットしないという由々しき事態に。「このカタログの誤り、表記漏れを修正する」というリンクから修正報告しておいたが、こういうのがよくあるってことかアマゾン。翻訳者名のほうを入れ忘れるならまだ判るんだけど。

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