2004/03/10

神の鉄槌 / アーサー・C・クラーク

神の鉄槌 / アーサー・C・クラーク 早川文庫SF

 映画「ディープ・インパクト」の原作(ノベライズ?)ということになっている本だが、例によって映画とは内容が全然違う。共通している要素は、アステロイドが地球に衝突しそうになること、アステロイドが途中で2つに分かれること、そのうち一方がムニャムニャ(ネタバレ自粛)することくらいか? 映画のほうはかなり単純でベタベタの展開だったが、本書では、調査隊がアステロイドに到達してからの新たな発見やエピソード、それを取り巻く宇宙の姿がひとつひとつ丁寧に描かれている。アステロイドを脅威と恐怖の対象として見るだけではなく、一方では地球の歴史に新たな展開をもたらす使者でもあるような、愛情さえ感じられる筆致で表現しているのである。

 話の中心となるのは2100年代。人類はすでに月や火星に移住し、それぞれの風土にあった生活基盤を築きつつある。そのため、地球に巨大隕石が落ちて壊滅的な打撃を受けたとしても、即刻の人類滅亡に繋がるわけではない。主人公のロバート・シン船長も、長期に渡る低重力環境での生活により、母なる地球の土を踏むことは二度と叶わぬ体質になっている。よって過剰な悲壮感はここにはないし、パニック小説にありがちな、逃げまどう人々の個別描写などはほとんど出て来ない。隕石落下を宇宙の営みのひとつとして、その中で人類がどのように対応できるのか、そして次はどこまで行けるのか? という問いを、一歩引いた目線から投げかけている。

 この作品が執筆されたのは1992年。それまでの地球で起きたことは史実に基づいて記されており、それ以降の年代に関わるエピソードも、実際に起こりうるかも知れないリアリティをもって描かれている。個人的に興味を惹かれたのは、未来の火星に出来るらしい『ディズニー・マーズ』。ウェルズやバロウズ、ブラッドベリの作品世界をジオラマとホログラフ投影で具現化した「人類が夢見て来た火星」のコーナーを回った後、最後の展示室で目にするのは「来たるべき火星」の姿。人類の不屈の精神と希望の光をかいま見ることができる。

 一章が細かく分断されたダイジェスト形式のせいもあるけど、クラーク作品はやっぱり読みやすいわ。

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