2005/10/08

宇宙消失 / グレッグ・イーガン





宇宙消失
著:グレッグ・イーガン 訳:山岸真
創元SF文庫
内容(「BOOK」データベースより)

2034年、地球の夜空から星々が消えた。正体不明の暗黒の球体が太陽系を包みこんだのだ。世界を恐慌が襲った。この球体について様々な仮説が乱れ飛ぶが、決着のつかないまま、33年が過ぎた…。ある日、元警察官ニックは、病院から消えた若い女性の捜索依頼を受ける。だがそれが、人類を震撼させる量子論的真実につながろうとは!ナノテクと量子論が織りなす、戦慄のハードSF。

 「ディアスポラ」を完読してる余裕がないので、ちょっと前に読んだこの本の感想を。量子論に関してはブルーバックスレベルの知識しかない私でも充分に楽しめた。とりあえずシュレディンガーの猫さえ知ってれば大まかなところは理解できる気が。

 2068年。ナノマシンで脳神経を再結線して、用途別にコンピュータ並みの処理機能を持たせることができるモッド(mod)が普及している社会。イントロから暫くは、主人公の脳内のモッドの働きを中心に話の大筋が進んでいく。各種モッドがどこのメーカー製だとか価格が何ドルだとか、本筋に全然必要ない注釈を入れて世界観をリアルに感じさせようとするのは、いかにもオタク的な手法で好きではない。説明のための説明文が延々と続くのは辛いな…と思っていたところ、ようやく具体的に話が展開しはじめ、量子力学界を震撼させる(らしい)驚きの新理論が暴露され、本ごと投げ出そうかどうしようか躊躇しているうちに事態は新たな局面へ。このあたりから一気に面白くなって来る。とんとん拍子に事態が運ぶ爽快さ、物事がうまく運び過ぎている時の焦燥、自信喪失して頂点からズンドコに突き落とされた心境、このへんのグダグダな感情の流れはもう大好き。ラストは、大きな達成感はないまでもそれなりにきれいな収束を見せていると思う。

 表層はまるで違うのにも関わらずディックに通じるものがあると感じてしまったが、某板のイーガンスレでも同じような事言ってる人がいたので私だけの錯覚ではないようだ。独特のガジェットや現実崩壊シチュエーションをがんがん出して来るのに、描き出したいのはあくまで「人間」「自分」の本質ってところも共通しているのかも。イーガンのほうは人と人との距離感を病的なくらい尊重してる気がするけど、それもやっぱり自分の外郭の大きさを把握する為なのだろう。
 個人的にはローラの話をもっと読みたかった。

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