2007/08/16

最後から二番目の真実 / フィリップ・K・ディック





最後から二番目の真実
著:フィリップ・K・ディック
訳:佐藤 龍雄
東京創元社

内容
西暦2025年。全世界を二分して続く大規模核戦争から逃れるため、人類は地下に作られた居住空間に住み、戦闘用ロボットを製造しては地上に送り出す生活を15年ものあいだ続けている。地上では少数の官僚達が戦局の指示にあたり、テレビ映像を通じて地下に戦況を放映していた。しかし、それはすべて作られたシナリオによる虚像であり、本当の戦争は10年以上も前に終結していたのだった…。

 ちょっと前に読んだんだけど、思い出しながら感想文書きます。サンリオ文庫版は古本でも3000円くらいの値がついていたため手を出していなかった本作、待望の新訳版。装丁画がなかなか良い。

 世界大戦が終わったことを知らず、地上はいまだ殺戮と放射能に満ちあふれていると思い込み、地下壕で15年も暮らし続ける数千万の人々。それを地上から管理しつづける、ごくひと握りの官僚達。大まかな設定はエミール・クストリッツァ監督のフランス映画「アンダーグラウンド」に似ていますが、こちらはやはりディック節のSF作品だけあって、地下の民衆の心をつかむため放送室に据えられて演説を繰り返すシミュラクラ(模造人間)、それに説得力を加える歴史改竄映像フィルム、官僚達に仕えるお手伝いさん兼戦闘ロボット群、自走式かつゲシュタルト偽装機能つき殺人兵器、あんまり推理とかせずに直感だけで動く予知能力者の探偵、世界に現存する人工臓器すべてを独占して生き永らえる老齢の独裁者、すっごい性能なのにやたらアッサリ描写されている「時間を掘削する装置」、年寄りにも若者にも見える出自不明の天才官僚などなど、見慣れた感じがするのにやっぱり変な設定てんこもりで飛ばしまくっています。次から次へとノンストップに新要素が出て来て読むの楽しい。

 ストーリー全体に流れるのは、真実とは何か、真実の意義とは何かという問いかけ。登場人物にとっての現実が大きく揺らぐ場面はあれど、読者側からすると、それほど混乱せず安心して読める展開ではないでしょうか。絶望感があまり漂ってないところも特徴。短編「パーキー・パットの日々」とは違って、この世界の民衆はちゃんとやる気があるんだもんな。一部の登場人物について風呂敷を畳み切っていない感もなくはないけど、終盤は、もうこれで話終わりそう…というところからまだしばらくページが続き、しっかりした結末をつけています。

 でも軍事目的の映画を作ってる「映像の天才」が航空機について時代考証してないなんて、映画を見てそのことに気づいた人が世界中にほとんどいないなんて…。この世界の1982年には、きっと軍事オタクとか飛行機オタクとかが存在してなかったのね。

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